上野まり子のアジアンスター

韓国映画『明日へ』プ・ジヨン監督インタビュー


明日へ プ・ジヨン監督

 こんにちは 上野まり子です。
大型スーパーの従業員が長期間職場を占領した2007年の事件をもとに、細部を再構成し、初めて映画化した話題作『明日へ』(英題CRART)が、11月6日(金)TOHOシネマズ新宿ほか全国で順次公開される。日本公開を前に来日したプ・ジヨン監督にインタビューした。


Q:映画公開によって韓国社会に影響があったか?
事件当時の2007年、非正規雇用についての法改正が行われ大量の解雇が出た。パク・クネ政権は非正規雇用を2年から4年に延長しようとしているが、非正規雇用の立場からするとあまり望ましい改革とは言い難く、根本的な対策とはなっていない。

Q:韓国国民にとっての理想的社会とは?
韓国は解雇しやすい非正規職か、派遣労働者が多く、労使契約がない場合も少なくない。誰が雇用主なのかが不明瞭で、責任転嫁の構図が横行している。そうした環境下では権利の主張も難しい。派遣は最小限の領域として、雇用が安定する正規雇用に向かうのが望ましいと思っている。

Q:韓国社会における女性の立場は?
世界の両性平等指数の標準からすると韓国は低い水準だ。儒教も影響しているが、未だに家長の 権威は大きく、女性は仕事と家事の両立を強いられている。また問題が起きた場合にも、女性一人で解決しなければならない。社会の中の見えない不平等は女性の社会進出や昇進を大きく阻んで来た。

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 本作では韓国の国民的名女優キム・ヨンエ、チョン・ウヒ、日本でも人気のキム・ガンウといった名俳優たちが脇を固めた。
Q:キム・ガンウのキャスティングについて
彼はこれまで物事を解決していく積極的な人物やアクションなど、男らしいキャラクターを演じる事が多かったが、以前出演した「京義線(キョンギセン)」では鉄道の機関士という労働階級の悩み多く、内向的な青年をうまく演じ、庶民的な人物がとても似合っていた。本作では内向的でありながら身を投じ、犠牲になっていくキャラクターをうまく演じてくれるだろうと思った。彼自身もこれまでにないキャラクターで興味を示し、出演を快諾してくれた。本作での演技に大変満足している。

Q:アイドルD.O起用の意図について
制作会社ミョンフィルムは前作『建築学概論』で、アイドルのペ・スジ(ミスA)を主演に起用し、商業的な成功を収めている。本作は馴染みのない特殊な題材のため、親しみ易く、多くの関心を得るためにアイドルのD.Oを起用した。韓国のアイドルは歌だけではなく、演技の勉強もしてきている。オーデイションや打ち合わせ等でD.Oはとても才能があると思った。

Q:苦労したシーンは?
水砲や乱闘など危険がある最後のシーンには4日間をかけた。けが人も出たが、皆全身全霊で渾身の演技をしてくれた。多くの俳優が出演していたため、一人一人に心配りが出来なかったが、全員が協力的で、達成感のある作品となった。


最後にプ・ジヨン監督は次のようにメッセージした。
この映画は女性が自我に目覚め、連帯して困難を解決して行く作品だ。年齢にとらわれず、幅広い人に観てほしい。今後も自分自身がよくわかる女性の問題を題材に取り組んで行くつもりだ。

明日へ プ・ジヨン監督
 韓国社会問題を扱い、激しい乱闘のシーンもあった作品のため、プ・ジヨン監督は失礼ながら男勝りの方と連想していた。ところがお会いしてみると、小柄で女優さんかと思うほど可愛らしい面立ちの方で正直驚いた。しかしインタビューを始めるとそういった印象は見事に覆された。やはり一貫して人権問題、社会問題を取り上げて来ただけあって、その主張も揺らぎない。とは言え、「今後も女性問題を扱っていくのか?」の質問には、そんな大それた事は考えていない、身の丈にあったものを取り上げるだけと謙虚さも忘れない。カメラに向かうその視線は鋭く、韓国社会の暗部を見逃さないという気概を感じた。

インタビュー 上野まり子

次回は、EXOのD.O.が歌う『明日へ』エンディングテーマのご紹介。D.O.は本名ド・ギョンスで本作に出演、映画デビューを果たした。



明日へ プ・ジヨン監督
© 2014 MYUNG FILMS All Right Reserved.
2015年11月6日(金)TOHOシネマズ新宿ほか、全国順次公開
公式サイト

【作品概要】
作品名:『明日へ』
2014年/韓国/104分/カラー/5.1chデジタル
監督:プ・ジヨン
脚本:キム・ギョンチャン
製作:シム・ジェミョン
キャスト:ヨム・ジョンア、キム・ヨンエ、キム・ガンウ、ムン・ジョンヒ、 チョン・ウヒ、ド・ギョンス(EXO)
日本語字幕:小寺由香
配給:ハーク
配給協力:アークエンタテイメント
(C)2014 MYUNG FILMS All Right Reserved.
【ストーリー】入社5年でようやく大手スーパーで正社員への昇格が決まったレジ係のソニは、度重なる残業や上司のイヤミにもひたすら我慢し、家族のために懸命に働いていた。しかしそんなある日、突如、非正規雇用者全員に一方的な「解雇通達」が下される―。 準社員の立場から一転、職を失ってしまう運命となったソニと同僚たち...。途方に暮れる彼女たちだったが、家族のため、そして自分の誇りを守るために、強大な企業権力を相手に解雇撤回を求めため一致団結し、職場を取り戻そうと奮闘するのだが―。


「上野まり子のアジアン・スターインタビュー」



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