上野まり子のアジアンスター

韓国映画「さまよう刃」9月6日(土)日本公開 それは"正義"か"悪"なのか



「さまよう刃」
「さまよう刃」
© 2014 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
2014年9月6日(土)
角川シネマ新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷 ロードショー

公式HP

 こんにちは 上野まり子です。
人気作家東野圭吾氏による小説『白夜行』『容疑者Xの献身』が相次いで映画化されている韓国。2014年4月には150万部を超えるベストセラー『さまよう刃』が映画化され公開、大ヒットした。その映画『さまよう刃』が9月6日(土)いよいよ日本公開となる。

 最愛の娘を未成年の少年たちに陵辱され殺された父親は、その哀しみに苦悶し、悔恨する。それはやがて少年たちへの復讐の感情へと変わっていく。被害者の父親から一転、復讐する加害者へと立場を変える主人公を追う正義感溢れるベテラン刑事。父親へ同情するがゆえに復讐を止めようと奔走する。

 平凡な日常がある日突然奪われる。加害者は少年法に守られ、被害者はただ哀しみと怒りに打ち震えながら耐えるしかないのか。東野文学のストーリーラインを踏襲しながらも、舞台を韓国に移し、現代のゆがみと被害者家族の心に鋭く迫った力作『さまよう刃』は心を激しく突き動かされる復讐劇でありつつ、スリル感溢れる刑事劇でもある。現代の歪みとむき出しの魂の叫びをすくい取った堅牢な人間ドラマなのだ。

チョン・ジェヨン
© 2014 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

 主人公の父親サンヒョン役は『ガン&トークス』('01)『シルミド SILMIDO』('03)、『トンマッコルへようこそ』('05)、『黒く濁る村』('10)などで日本でも知られ、“千の顔”を持つ韓国きっての演技派俳優チョン・ジェヨン。実話のような骨太なシナリオに共感したと話している。
 どこにでもいる平凡な父親にも起きうる事。もし自分がその状況になったらどのような感情になるのかを自身に問いただしながら演じた。一番つらかったのは娘の死を認めなければならない死体安置所のシーン。父親の心情は理解できるが、果たして正しいのか。出てくる人物すべてが彷徨う。「刃」には法の意味がある気がするとチョン・ジェヨン。結論は観客にゆだねられている気がするとインタビューに答えている。

イ・ソンミン ソ・ジュニョン
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 一方、復讐者へと変わってしまった父親を追う刑事オッグァン役は喜劇からシリアスなドラマまで幅広い演技で知られる名優イ・ソンミン。加害者保護の「少年法」に疑問を抱きつつ、少年犯罪者への深い思慮をも持ち合わせて葛藤する刑事を見事に演じた。事件に対し、法とそれ以外の視点を持つ役どころに魅力を感じたという。複雑な性格と心理を持つ人物を表現することは大変だったが、一つ一つ解決していく撮影現場は気持ちが良かったと話す。犯罪には大人も子供もない。重い犯罪に対し、どのように理解し、受け入れるのか。それがこの映画が提示する問題であり、皆が悩み考えなければならない部分で、それをオッグァンが担っていたという。そして本作について未成年犯罪、青年犯罪に対してどんな明瞭な「刃」もないという話だと断言する。

 また、新米の刑事には大ヒット歴史ドラマ「根深い木」('11)で世宗大王の息子・廣平大君を演じたソ・ジュニョン。ドラマ「あなただけよ」の主人公キ・ウンチャン役で韓流スターの仲間入りを果たした。
 加害者少年役を演じたのは韓国の「柳楽優弥」と呼ばれるイ・ジュスン。本作が商業映画デビューとなった。キャラクターを理解しない様にして演じることが必要で大変だったと話している。

 監督はデビュー作「ベストセラー」('10)以来4年ぶり二作目となったイ・ジョンホ。東野作品が好きだというイ監督は原作が提示する社会に対する辛辣な視線と事件構造をそのままスクリーンに映し出しつつ、自分なりの解釈を加味した。2008年原作を読み涙したというイ監督、映画化するためには難しい点もあり、7年を費やし、シナリオの修正を50稿も重ね入念に準備してメガホンを取った。

 励まされるべき被害者たちが、さらに大きな被害を受けるしかない社会のシステム。仕方がない状況に置かれた一人の男と、彼を理解しつつも追うしかない男。そして加害者の親たちなど多くの違う立場を現実的に描こうと努力した。
 この社会システムは何かが間違っている。しかしその改善の糸口さえ探すことができないと語るイ・監督は「この映画を実話だと思って作った」と話す。深い無力感に一人黙々と苦痛に耐えている誰かの代わりに叫んであげることができればという思いで撮ったラストシーン。私たちはこの男の叫びを聞かなくてはならないとインタビューを締めくくった。

 「正義」とは何か?遺族に「救済」はあるのか?
切なく静かな激情の刃、それは不条理な正義・・・・。
父親は復讐を果たすことが出来るのか?

「さまよう刃」
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【概要】
「さまよう刃」
原作:「さまよう刃」東野圭吾(朝日新聞出版)
2014年/韓国/韓国語/122分/原題:)シiヨXユ抜 |ホー
監督・脚本:イ・ジョンホ
撮影:キム・テギョン 音楽:キム・ホンジプ
出演:チョン・ジェヨン、イ・ソンミン、ソ・ジュニョン、イ・ジュスン、イ・スビン
配給:CJ Entertainment Japan
公式ページ
【ストーリー】
町内の廃墟と化した銭湯で、冷たくなった死体で発見された女子中学生スジン。 父親のサンヒョンは妻を亡くしてから男手ひとつでスジンを育ててきた。一人娘の死を目の前に、喪失感でただただ茫然とする。そんなある日、サンヒョンに犯人の情報が書かれた匿名のメールが届く。そこに書かれている住所を訪ねると、少年たちに暴行され死にゆく娘スジンの動画を見て笑うチョルヨンを目撃する。一瞬、理性を失い誘発的にチョルヨンを殺してしまうサンヒョンは、また別の共犯者の存在を知り犯人を捜そうとする。一方、スジンの殺人事件の担当刑事オッグァンはチョルヨンの殺害現場を見てサンヒョンが犯人だと見抜き、追跡し始めるのだった。正義とは何か?誰が犯人を裁くのか?世論を巻き込み、事件は予想外の結末を迎えるー。

【東野圭吾作品】
さまよう刃 (角川文庫)
容疑者Xの献身 (文春文庫)
白夜行 (集英社文庫)
天空の蜂 (講談社文庫)
なお、2015年には原発を題材にしたサスペンス小説「天空の蜂」が実写映画化され全国ロードショーとなる。
メガホンを取るのは、『20世紀少年』、『トリック』シリーズなどの堤幸彦監督。
また、江口洋介と本木雅弘がこの新作映画で初共演を果たすことが決定している。

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